葬儀や役所の手続きがひと息ついたころ、ふと故人のスマホが目に入る。通知はたまっているのに、ロックがかかっていて開けない。カードの明細には、見覚えのない月額料金が並んでいる。
形のある遺品なら、実家に行けば「そこにある」と分かります。でもスマホの中のデータやネット上の契約は、あることにすら気づきにくい。何が「デジタル遺品」にあたるのか、どこに問い合わせればいいのかが分からず、遠回りしてしまう人も少なくありません。
サービスごとの申請方法は別の記事に分けています。このページは、急ぐもの・残すもの・後回しでいいものを仕分けるための「地図」として使ってください。
デジタル遺品整理とは
デジタル遺品とは、故人がスマホやパソコン、インターネット上に残したデータ、アカウント、契約のことです。
- スマホ・パソコン本体と、その中の写真や連絡先
- SNS(Facebook、Instagram、X、LINEなど)
- サブスク(動画・音楽配信などの定額サービス)や有料アプリ
- メールアカウント
- クラウドの写真やファイル(Googleフォト、iCloudなど)
- ネット銀行・ネット証券・暗号資産・ポイント・マイル
これらを家族が確認し、解約・削除・引き継ぎをしていくのが「デジタル遺品整理」です。似た言葉の「デジタル終活」は、本人が元気なうちにパスワードの残し方などを準備しておくこと。死後に家族がやるのが整理、生前に本人がやるのが終活、と覚えておくと混乱しません。
国民生活センターも2024年11月に「デジタル終活」を呼びかけています。相談事例には、故人のスマホのロックが解除できずネット銀行の手続きが進まない、IDとパスワードが分からずサブスクの請求を止められない、といったものがありました。困っているのは自分だけではない、と知るだけでも少し気が楽になるはずです。
物理の遺品整理との違い
いちばんの違いは、目に見えないことです。段ボールなら開ければ中身が分かりますが、デジタル遺品はパスワードがないと確認できず、契約に気づかないことさえあります。
しかも、放っておくと状況が勝手に動きます。料金は引き落とされ続け、使われないアカウントは削除されることがある。家具や衣類の片付けについては、遺品整理とは?費用・進め方・業者選びまで流れがわかる完全ガイドで流れをまとめています。
放置するとどうなる?デジタル遺品で起きやすい困りごと
全部が急ぎではありません。ただ、次の4つは知っておくと安心です。
サブスクや有料サービスの引き落としが続く
契約者が亡くなっても、サブスクは自動では止まりません。クレジットカードを止めても、サービス側の契約は残ったままになる場合があります。
SNSの乗っ取りや、故人あての通知が続く
誕生日のお知らせが友人に届く、故人あてのメッセージが来る。家族には地味につらいものです。放置されたアカウントが乗っ取られ、詐欺に使われるおそれもあります。
写真やメールが、気づかないうちに消えてしまう
Googleは、2年間使われていない個人アカウントを削除できるポリシーを設けていて、2023年12月から削除が始まっています。削除前の通知も、届く先は故人のGmailや予備のアドレスです。「落ち着いたら写真を見返そう」と思っているあいだに消えうる。見落とされやすいのに取り返しがつきにくい、特に注意したい点です。
ネット銀行や証券など、財産があること自体に気づけない
ネット銀行やネット証券は通帳がないため、存在に気づかないまま相続の話が進みがちです。口座の相続手続きは銀行口座凍結・相続手続きの解説記事を参考にしてください。
始める前に確認したいこと
先に済ませたいのは、期限のある行政・金融の手続きです。順番は死亡後の手続きチェックリストにまとめています。
相続放棄を考えている場合は、暗号資産やポイントなど財産価値のあるものを動かす前に立ち止まってください。処分の仕方によっては、相続を承認したとみなされる可能性があります。
もうひとつの前提として、故人のID・パスワードを知っていても、本人になりすましてログインする使い方は、多くのサービスの規約で想定されていません。遺族向けの窓口があるサービスは、そちらを使うのが確実です。
そして最初に、エンディングノートやパスワードのメモが残っていないか探してみてください。手帳の後ろのページなど、思わぬ場所から出てくることがあります。
デジタル遺品整理でやることの全体像
| 分野 | 主な窓口 | 急ぐ度合い | ポイント |
|---|---|---|---|
| スマホ・パソコン本体 | 端末メーカー・携帯会社 | 高(回線は残す) | 店舗でも画面ロックの解除は期待しにくい |
| SNS | 各SNSの遺族向けフォーム | 低(乗っ取り時は高) | 残すか消すかを選べるものもある |
| サブスク・有料サービス | 契約・支払いをした窓口 | 高 | お金が出ていき続ける |
| メールアカウント | メールサービス・プロバイダ | 最後まで残す | パスワード再設定の受け取り先 |
| クラウドの写真・データ | Google・Appleなど | 中 | 放置で消えることがある |
| ネット銀行・暗号資産・ポイント | 金融機関・取引所・運営会社 | 中 | 相続できるものとできないものがある |
スマホ・パソコン本体(ロック解除とデータの確認)
画面ロックは、携帯会社の店舗に持ち込んでも解除してもらえないと考えておいたほうが安全です。国民生活センターが紹介した相談事例でも、店舗で「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と言われています。iPhoneの場合、Appleもパスコードが分からないときは、データを消去してリセットする方法を案内しています。回線の解約や端末の初期化の前に、ロックを開ける手がかりを探しましょう。
SNSアカウント(追悼アカウント化・削除)
FacebookとInstagramは「追悼アカウント」として残すか、削除するかを選べます。Xには追悼アカウントの仕組みがなく、遺族ができるのはアカウントの利用解除(削除)の依頼が基本です。LINEは引き継ぎができず、削除を希望する場合は問い合わせフォームから連絡します。各社の扱いは変わることがあるので、申請の前に公式ヘルプで確認してください。
サブスク・有料サービスの解約
App Store、Google Play、携帯料金との合算、クレジットカード払いなど、どこで契約・支払いしたかで解約の窓口が変わります。
メールアカウント
ほかのサービスでパスワードを再設定するときの受け取り先なので、最後まで残しておきます。
クラウドの写真・データ
Googleには「故人のアカウントに関するリクエスト」という窓口があります。Appleは、本人が「故人アカウント管理連絡先」を指定していればその人が申請でき、指定がなくても「デジタル遺産」のWebサイトから家族が手続きを申し込めます(必要書類は国・地域で異なります)。
ネット銀行・暗号資産・ポイント・マイル
預金や暗号資産は相続財産になりますが、ポイントやマイルは相続できるものと本人限りで消えるものに分かれます。
何から手をつける?優先順位の考え方
一覧を見て「全部は無理」と感じる人は多いと思います。やることを4つの箱に分けて考えると、だいぶ気が楽になります。
- まず止める:お金が出ていき続けるもの。サブスク、有料アプリ、クラウドの有料プランなど。
- まず残す:スマホ回線とメールアドレス。二段階認証のSMSやパスワード再設定メールの受け取り先なので、ほかの手続きが終わるまで解約しません。
- 急がなくていい:SNSの追悼アカウント化や削除。気持ちが落ち着いてからで大丈夫です。ただし乗っ取りの兆候があれば早めに。
- 消える前に確保する:写真や動画。取り出して保存してから、アカウントを閉じるか決めます。
つまずきやすいのは、サブスクを止めたい一心で携帯回線ごと解約してしまうパターンです。認証コードが受け取れなくなり、かえって遠回りになることがあります。
離れて暮らす家族でもできること
SNSや大手サービスの遺族向け申請は、多くがWebフォームで受け付けていて、書類も写真やPDFでアップロードする形式が多いです。カードや銀行の明細も、オンラインで確認できる場合があります。
帰省したときは、スマホ・パソコン本体と充電器、エンディングノートやパスワードのメモを回収しておきます。このとき、パスコードを当てずっぽうで何度も試すのは控えてください。失敗が続くと一定時間ロックされる機種が多く、iPhoneは「データを消去」の設定がオンだと、10回の失敗で中身が消去されます。
兄弟姉妹で手分けするなら、窓口担当を1人決めておくと、同じ書類の重複請求を防げます。
自分でやる?専門業者に頼む?
スマホのロック解除の調査やデータの取り出しを請け負う、データ復旧・デジタル遺品整理の業者もあります。ただ、必ず開くとは限らず、費用も機種や調査の内容で大きく変わります。頼むなら、成功しなかった場合の費用まで見積もりで確認しておくと安心です。
SNSやサブスクの手続きは、多くが家族自身で公式窓口から進められます。相続財産の調査が必要な場合は、弁護士・司法書士・税理士に相談してください。
生前にできる備え(デジタル終活)
ここまでの困りごとの多くは、本人の少しの準備で軽くなります。自分のためにも、親と話すきっかけとしても、次の3つから始めてみてください。
使っているサービスの一覧を作る。 サービス名と用途(支払い・写真・連絡など)だけでも、家族には大きな手がかりです。
各社の事前設定を使う。
- Google「アカウント無効化管理ツール」:一定期間使われなかったとき、指定した人(最大10人)に通知やデータ共有ができる
- Apple「故人アカウント管理連絡先」:指定した人が、死後に写真などのデータを申請できる(アクセスキーと死亡を証明する書類が必要)
- Facebook「追悼アカウント管理人」:追悼アカウントの管理人を指定できる。代わりに「死後に削除」を選ぶことも可能
パスワードの残し方を決める。 生きているうちは見られたくない、でも万一のときは開けてほしい。ここが一番悩むところです。国民生活センターは、パスワードを書いた紙を修正テープで隠し、家族が見つけられる場所に置く「スマホのスペアキー」という方法を紹介しています。エンディングノートやパスワード管理ツールを使う方法も含めて、残し方は別の記事で比べています。
親にデジタルの話だけを切り出すのは気まずいものです。モノやお金の整理とあわせて話すなら、生前整理の費用相場とやることリストも参考になると思います。
よくある質問
Q. デジタル遺品整理は家族が自分でできる?
多くはできます。SNSの削除やサブスクの解約などは、家族が公式窓口から申請する形です。難しいのは、スマホのロックが開かないケースです。
Q. 故人のスマホのパスコードが分からない。携帯会社で開けてもらえる?
難しいと考えておいたほうがいいです。国民生活センターの事例でも、店舗で「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と言われています。初期化すればデータは消えるので、まずメモを探してください。
Q. 故人のアカウントに、知っているパスワードでログインしてもいい?
本人以外の利用を規約で認めていないサービスが多いです。遺族向けの窓口があるなら、そちらが確実です。迷ったら各サービスや専門家に確認してください。
Q. 何もしないで放置したらどうなる?
請求が続く、SNSが乗っ取られる、写真の入ったアカウントが削除される、といったことが起こりえます。「お金が出ていくもの」と「消えてしまうもの」だけは早めに確認を。
Q. 実家が遠くても手続きできる?
Webフォームで完結する申請が多いです。帰省時にスマホ本体やメモを回収しておけば、残りは自宅から進められる場合もあります。
全部を一度に片付ける必要はありません。お金が出ていくものを止め、回線とメールを残し、写真を確保する。そこまでできたら、あとは家族のペースで進めて大丈夫です。


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