パスワードの家族への残し方|エンディングノートの書き方と安全な共有方法

デジタル遺品整理

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生きているうちは、あまり見られたくない。でも自分に何かあったとき、家族がスマホも開けず、サブスクも止められずに困るのは避けたい。パスワードの残し方は、この2つの気持ちの間で手が止まりやすいテーマです。

「iPhoneで家族を指定しておけば済むのでは」と考える人は多いと思います。ところがAppleとGoogleの公式ヘルプを読むと、どちらの仕組みでもパスワードそのものは家族に渡らないと書かれています。設定したことで安心していると、ここを見落としがちです。同じように考えている人に向けて、紙・スマホの機能・パスワード管理アプリの3つの残し方を比べておきます。

パスワードが分からないと、家族は何に困るのか

国民生活センターが2024年11月に公表した「デジタル終活」の注意喚起には、こんな相談が載っています。

  • 故人のスマホが開けず、ネット銀行の契約先が分からない
  • IDとパスワードが分からず、サブスクの請求を止められない

主なサービスには遺族向けの窓口があります。ただ、書類をそろえて申請し、返事を待つ必要があります。もっと困るのは、家族が契約の存在に気づけないケースです。通帳のないネット銀行や、カード明細に小さく載るだけのサブスクは、窓口があっても申請までたどり着けません。

家族の側で何が起きるかは、デジタル遺品整理の全体ガイドにまとめています。

iPhoneやGoogleの「死後の仕組み」でも、パスワードは引き継げない

Appleの「故人アカウント管理連絡先」でできること・できないこと

iPhone(iOS 15.2以降)では、自分の死後にデータを申請できる人を「故人アカウント管理連絡先」として指定できます。申請にはアクセスキーと、日本の場合は死亡の記載がある戸籍謄本が必要です。

渡せるのは写真・メッセージ・メモ・ファイル・バックアップなど。一方でiCloudキーチェーンのパスワード・パスキー・支払い情報、購入した映画や音楽、サブスクにはアクセスできないと、Appleのサポートページに明記されています。親のスマホそのものを解約する前に確認したいことは、親のスマホ・サブスクを解約する前に確認しておきたいことに5つにまとめています。

Googleの「アカウント無効化管理ツール」でできること・できないこと

Googleには、一定期間使われなかったときに、指定した人(最大10人)へGmailやドライブなどのデータを共有できる「アカウント無効化管理ツール」があります。ただ、遺族向けの「故人のアカウントに関するリクエスト」のページで、Googleはパスワードやログイン情報は伝えられないとしています。

だから「スマホの設定」と「パスワードを残す」の両方が必要

写真やデータ パスワード サブスクの解約
Apple 故人アカウント管理連絡先 渡る 渡らない 使えない
Google アカウント無効化管理ツール 渡る(選んだデータ) 渡らない 使えない

スマホの設定は「思い出を残す」仕組みで、「手続きを進める」仕組みではありません。両方やっておくのが現実的です。

何のパスワードを残すか|優先順位

全部書こうとすると、たいてい途中で手が止まります。使っているサービスを数え始めるだけでも、思った以上に数が多いものです。次の順で考えると手が動きやすいです。

  1. スマホの画面ロック(パスコード):これが開かないと何も確認できません。iPhoneは設定によって10回の入力ミスでデータが消えるので、家族が当てずっぽうで試すのも危険です
  2. メインのメールアドレス:ほかのサービスのパスワード再設定の受け取り先です
  3. お金に関わるもの:ネット銀行・ネット証券・暗号資産の取引所・コード決済
  4. 有料のサブスク:「サービス名と支払い方法」だけでも十分です
  5. SNS:パスワードより「残すか消すか」の希望を書くほうが役に立ちます

パスワードまで書けなくても、サービス名の一覧があるだけで家族の負担は大きく減ります。

方法1:エンディングノート(紙)に書く

いちばん手軽で、スマホが苦手な人でもできる方法です。

書く項目のテンプレート

市販のエンディングノートでも、普通のノートでもかまいません。1サービス1行で、次の項目があれば足ります。

サービス名 ログインID パスワード(またはヒント) 支払い方法 死後の希望
例:〇〇ネット銀行 〇〇@example.com ヒント:実家の電話番号+〇 ― 相続手続き
例:動画配信サービス 〇〇@example.com (書かない) 〇〇カード 解約
例:Facebook 電話番号 ヒント:最初の飼い犬 ― 追悼アカウントに

パスワードをそのまま書かない工夫

  • ヒント方式:家族なら分かる手がかりだけを書く。家族に本当に分かるか、一度確かめておかないと意味がありません
  • 分割方式:前半だけをノートに書き、後半は別の封筒などに分けておく

国民生活センターは、パスワードを書いた紙を修正テープで隠し、家族が見つけられる場所に置く「スマホのスペアキー」という方法も紹介しています。

保管場所と伝え方

書いたら封筒に入れて封をし、「どこにあるか」だけを家族に伝えます。貸金庫は、契約者が亡くなると相続手続きが済むまで開けにくくなる場合があるので、すぐ使う情報は手の届く場所に置くほうが無難です。口座の相続手続きは銀行口座凍結・相続手続きの解説記事を参考にしてください。

つまずきやすいのは書き直しです。パスワードを変えたのにノートは3年前のまま、になりがちなので、誕生日や年末など見直す日を決めておきましょう。

なお、スマホのメモアプリや家族とのLINEにそのまま書き残すのは避けてください。スマホが開かなければ家族は見られず、端末をなくすと流出のおそれもあります。

方法2:スマホの標準機能で共有する(無料)

iPhoneの「パスワード」アプリ(iOS 17以降の共有グループ)も、Googleパスワードマネージャー(Googleのファミリーグループ)も、選んだパスワードだけを家族と共有できます。アプリを追加しなくていいのが利点です。

ただ、どちらも共有した時点で家族に見えます。iPhoneの共有グループは、Appleのガイドによるとメンバー全員がいつでも表示・編集・削除できます。死後にだけ見せる使い方はできないので、動画配信や自宅のWi-Fiなど、見られてもいいものの共有に向いています。

方法3:パスワード管理アプリの「緊急アクセス」を使う

生きているあいだは見られず、万一のときだけ渡す。この希望にいちばん近いのが、パスワード管理アプリ(パスワードを暗号化して保管するアプリ)の「緊急アクセス」です。

登録しておいた家族が申請すると本人に通知が届き、待機期間のうちなら本人が拒否できます。元気なときに申請されても中身は見られない。ここが紙やスマホの共有との大きな違いです。ただし、この機能の有無はアプリによって違います(2026年10月5日時点、各公式サイトで確認)。

アプリ 死後に家族へ渡す専用機能 費用の目安
Bitwarden あり(有料プラン) Premium 年19.80ドル/Families 年47.88ドル(最大6人)。いずれも税別
1Password なし(Emergency Kitなどで代替) ソースネクスト3年版 1人用17,980円/5人用27,980円(税込)
NordPass あり(有料プラン) 公式サイトで確認を
Keeper あり 公式サイトで確認を
ノートン パスワード マネージャー 公式情報では確認できず 単体で無料(制限がある場合あり)。ノートン360にも含まれる

Bitwardenの緊急アクセス

このテーマにいちばんまっすぐ応えているのがBitwardenです。有料のPremiumかFamiliesで使え、家族側は無料アカウントでも緊急連絡先になれます。アクセスは「閲覧」(見るだけ)と「引き継ぎ」(家族が新しいマスターパスワードを設定して保管庫ごと引き継ぐ)の2種類。待機期間は自分で決められ、その間は申請を拒否できます。

料金は米ドル建て(税別)なので、円での支払額は為替によって変わります。アプリと公式ヘルプは日本語に対応しています。最新の料金はBitwardenの料金ページで確認できます。

1Passwordの場合(専用機能はない)

1Passwordには、死後に家族へアクセスを渡す専用の機能はありません。公式ヘルプの案内のうち、代わりに使えるのは次の2つです。

  • Emergency Kit(緊急キット)を信頼できる人に渡す:登録時にPDFで発行される書類で、サインイン用の情報と「秘密鍵(Secret Key)」が載り、パスワードを書き込む欄があります。公式ヘルプも、配偶者など信頼できる人にコピーを渡すよう案内しています
  • ファミリープランなら管理者を2人以上にする:管理者はほかのメンバーのアカウントを復旧できますが、自分のアカウントは自分で復旧できないためです。ただし復旧は、本人のメールに届くリンクから新しいパスワードを設定する手順なので、家族が本人のメールを開けることが前提になります

つまり方法1と同じく、封をしたEmergency Kitの保管場所を家族に伝える形になります。拒否できる待機期間はないので、Kitを見られた時点で中身に入れる点は理解しておきたいところです。

日本ではソースネクストが公式販売店として独自の3年版を販売しています(価格は上の表のとおり。機能はメーカー公式版と同じと案内されています)。自動更新ではなく3年後に買い直す形で、期間が切れても、登録済みのパスワードは引き続き使えると案内されています。

円で3年分をまとめて買えて、自動更新もない。この買い方を重視するなら検討しやすいと思います。ただ、死後に渡す専用機能がない点は同じなので、Emergency Kitの保管とあわせて使う前提です。価格は変わることがあるので、購入前に公式サイトで確認してください。

1Password(ソースネクスト)の公式サイトはこちら

その他のアプリ

NordPassも有料プランで緊急アクセスが使え、申請後、一定期間内に本人が承認か拒否を選べる仕組みです。Keeperは緊急連絡先を最大5人、待機期間を最長3か月まで設定できます。細かい仕様は各社の公式ヘルプで確認してください。

ノートン パスワード マネージャーは単体でも無料で使えるパスワード管理アプリで、セキュリティソフトの「ノートン360」シリーズにも機能として含まれています。ただ、今回確認した公式ページでは、家族に死後アクセスを渡す機能の記載は見つかりませんでした。パスワード管理だけなら無料版で足りることが多いですが、App Storeの説明には、無料版は保存件数などに制限がかかる場合があるとの注記があります。ウイルス対策ソフトもあわせて選ぶ予定がある人なら、ノートン360の中で使う方法もあります。製品ごとの内容と価格は公式サイトで確認してください。

ノートンの公式サイトはこちら

どれを選ぶ?3つの方法の比較

紙のエンディングノート スマホの標準機能 管理アプリの緊急アクセス
費用 無料 無料 有料が中心
生きているあいだ家族から見えるか 見えない(封をすれば) 見える 見えない
死後に家族へ渡るか 保管場所が伝われば渡る 共有した分は渡る 渡る
更新の手間 大きい 小さい 小さい
スマホに不慣れな人向きか 向いている ふつう 慣れが必要

ひとつに絞る必要はありません。たとえば次のような組み合わせ方があります。

  • スマホが苦手な人:紙にサービス一覧を書き、スマホのパスコードだけは「スペアキー」で残す
  • 家族で同じサービスを使っている:見られてもいいものはスマホの共有、お金に関わるものは紙で
  • アプリに慣れている:緊急アクセスのあるアプリに集約し、アプリを開くパスワードだけ紙で残す

どの方法でも、最後に紙で残す情報がひとつは残ります。そう割り切ると迷いにくくなります。

離れて暮らす親にパスワードを残してもらうには

子どもから急に「パスワードを教えて」と言われたら、親はあまりいい気分ではないはずです。頼み方を少し変えると進めやすくなります。

  • 「使っているサービスの名前だけ書いておいて」から頼む:一覧なら抵抗が少なめです
  • 帰省したときに一緒に一覧を作る:ホーム画面のアプリを一つずつ書き出すと漏れが減ります。遠方ならビデオ通話で画面を見せてもらう方法もあります
  • 親がiPhoneなら、故人アカウント管理連絡先に登録してもらう:その場で設定でき、「写真を残すため」と言えばパスワードの話より切り出しやすいはずです

モノやお金の整理と一緒に話すなら、生前整理の費用相場とやることリストもきっかけになると思います。

よくある質問

Q. エンディングノートにパスワードを書くのは危険では?

そのまま書けば見られるリスクはあります。ヒント方式や分割方式で書き、封をして保管場所だけ伝えると、リスクはかなり下げられます。完全に安全な方法はない、と考えておいてください。

Q. 家族にパスワードを教えたら、死後にログインして手続きしてもいい?

本人以外の利用を規約で認めていないサービスが多いです。パスワードは「契約の存在を知る手がかり」と考え、解約や相続の手続きは遺族向けの公式窓口を使うのが確実です。

Q. パスワード管理アプリの会社がなくなったらどうなる?

多くの場合は事前に告知があると考えられますが、本人が亡くなった後なら家族は気づけません。アプリだけに頼らず、サービス名の一覧は紙にも残しておくと安心です。


全部をきれいに書き残せる人は、たぶん多くありません。まずはサービスの名前を書き出すことと、スマホのパスコードを残すこと。この2つができれば、家族が「どこから手をつければいいか分からない」状態はかなり避けられます。あとは自分に合う方法で少しずつ足していけば十分です。

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